駅の構内でよく見かける「立ち食いそば屋」。移動の合間にさっと食べられるし、価格もリーズナブルで、忙しいサラリーマンの味方ともいうべき存在ですよね。
手軽に食べられて、私たちの生活に身近に感じる一方、「蕎麦屋」ってちょっと高いイメージがありませんか?
確かに、手打ちの蕎麦やチェーン店ではない“街の蕎麦屋”で食べる蕎麦って、スーパーで売っているような一袋数十円の蕎麦や、チェーン店の蕎麦とは段違いにおいしいんですよね。味や香り、歯ざわりもなんだかちょっと違います。
その違いは、蕎麦に使われるそば粉の割合にあります。
突然ですがみなさん、「十割そば」(じゅうわりそば)ってなんだか分かりますか?
十割そばとは、そば粉のみを使って作られた蕎麦のこと。
蕎麦は通常、小麦粉を「つなぎ」としてそば粉と合わせて麺を作ります。
小麦粉に含まれるグルテンは、その粘着力で粉どうしをつなげる役割をします。そば粉と小麦粉を合わせて麺を作ることで、表面が滑らかな、歯ごたえのある蕎麦になるのです。
つなぎに使う小麦粉の割合よって、そばの呼び名が違います。
そば粉が八割、つなぎを二割使った蕎麦は「二八そば」、そば粉が九割、つなぎが一割の蕎麦は「九割そば」と呼ばれます。
「つなぎを使わずそば粉を100%使った蕎麦のほうがおいしいんじゃないの?」と思ってしまいますが、実はそうではないのが蕎麦。
十割そばはつなぎを使わずそば粉のみで作られるため、蕎麦の香りを十分に楽しめる一方、ザラザラした歯ざわりや、食べるときにブチっと切れてしまったりする特徴があるため、一般的に「二八そば」が最もおいしいとされているのです。
街の蕎麦屋さんでも、二八そばを提供するお店が多くあります。本格的な蕎麦屋だからといって、どのお店もそば粉100%の十割そばを提供しているのではない、というわけですね。
さて、対するリーズナブルなチェーン店で提供されるそばはというと、「二八そば」よりもさらに使われるそば粉の割合が少なくなっています。
大手そばチェーン店「富士そば」では、石臼引きのそば粉を4割、つなぎの小麦粉を6割使っているのだとか。
そば粉の価格は、小麦粉の約2倍、国産のそば粉であればさらにその2倍も高いもの。そば粉の割合を多くすればするほど、提供する価格を上げざるを得ないわけですから、手軽に食べられるチェーン店のそばはつなぎの割合が多いのも納得です。
半分以上小麦粉でできているのに、それって蕎麦と呼んでいいものなの!?
そば粉の割合を表示していれば「蕎麦」
市販されているそばでよく見かけるのは乾麺ですね。それらは「乾めん類品質表示基準」で、乾めん類のうち、そば粉を使用しているものを「干しそば」と定義しています。
干しそばのうち、そば粉の配合割合が30%未満の場合はそば粉の配合割合を表示することが定められています。ただし、そば粉の配合割合が30%以上であれば、表示する義務はありません。
つまり、特に表示がない干しそばは、そば粉を30%以上配合していると考えてよさそうです。
そば粉の配合割合が30%未満の場合は、実際の配合率を上回らない数値で「20%」などと記載することが義務付けられています。ただし、10%未満の場合は「10%未満」などと記載することが義務付けられています。
つまり!
1%でもそば粉を配合していて、容器や包装にそば粉の配合割合を「10%未満」と表示さえしていれば、あとの99%は小麦粉でできていて蕎麦の香りなんてほとんどしなくても「蕎麦」として販売することができるんです!
そんなんでいいのかよー!?!?!?
そば粉の割合が少なくても蕎麦っぽく感じさせる工夫
そば粉が配合されてさえすれば、「蕎麦」と名乗っていいということは分かりましたが、おいしい蕎麦を提供しつつコストは抑えたいのが店側の心理ですよね。
コストを抑えるためにそば粉の配合割合を少なくしても、しっかりとそばの味がするように工夫をしているんです。
「小麦粉が多いとそばの色が白くなるため、着色料を使って“そば”らしい色にする。さらにそばの香りを出すため、そばの実の殻に近いエグみのある部分を混ぜる。このようなテクニックを使えば、機械製麺なら1玉30円以下で店に納入することができる」
このように、そば粉の配合量を少なくしても、より「蕎麦っぽい」蕎麦を提供できるように、努力しているようです。
結論:違いはそば粉の量だった
蕎麦屋のそばとチェーン店のそばの違いは、そば粉の量にあったようです。 それでも!富士そばだって駅の立ち食いそば屋だって、おいしいものはおいしいものですよね。 好みはそれぞれですが、一度は八割以上そば粉を配合した「二八そば」を食べてみると、その違いに驚くかもしれません…!